教え方
独自の「Ren 物理塾 ファイル」(プリント)で教えています。このファイルは、個々の単元の〈定義〉と《結論》を分かりやすい{筋道}で連結しています。
このファイルを使い、生徒さんが個々の単元を自然に納得できるような教え方を心がけています。
その例として、2つの単元を取り上げます。

例1 少し変わった教え方の「ドップラー効果」の最初の単元です。中学生程度の知識があれば理解できます。読んでみてください。
例2 物理をやり始めて、難しいと感じる「等加速度運動」の単元です。2つの方法で説明しています。方法Tから読んで下さい。方法Uは微積の初歩を学習した生徒さんには、いい方法ですが、学習していない生徒さんには理解できません。

  
例1 ドップラー効果の基本
「救急車がサイレンを鳴らしながら側を通り過ぎて行くとき、サイレンの音の高さが急に低くなる。」
これは、サイレンの振動数は通り過ぎる前後で変化しないのに、観測者が聞く振動数(音の高さ)が救急車の通過前後で急に変わることを意味している。
一般に、〈音源の振動数と観測者が聞く振動数が異なる現象をドップラー効果〉(定義)という。
この現象は、図のように,ベルトコンベヤーでリンゴ娘Sがリンゴ娘Rへりんごを送るとき、Sが単位時間当たりにベルトの上に置くりんごの数とRがベルトから単位時間当たりに拾うりんごの数との関係と同じである。Sが1秒当り$f_S$個のりんごをベルトの上に置き、Rがベルトの上のりんごを1秒当り$f_R$個拾うものとする。S、Rが静止しているときは$f_S=f_R$であるが、S、Rが動くときは$f_S$と$f_R$の値は異なる。


ベルトの速さを$v$として、S、Rが運動すると$f_R$がどのように変わるか見てみることにする。
(1)Sは静止していて、RがSに近づく向きに速さ$r$で動くとき


Sの前をベルトが1秒当り$v$[m]だけ通過するから、Sは1秒当たりの長さ$v$[m]のベルトの上に$f_S$個の割合でりんごを乗せる。Rが1秒当りに拾う数$f_R$は自分の前を通りすぎるベルトに乗っているりんごである。動いているRに対しては1秒間に長さ$(v+r)$[m]のベルトが通りすぎるから、これだけの長さのベルトに乗っているりんご$f_R$を拾うことになる。従って次の比例式が成り立つ。
\[ v :f_S=v+r :f_R \] \[ ∴ f_R=(        )f_S \]

(2)次にRが静止していて、Sが速さ$s$でRに近づくとき。


上図のようになり、1秒当たり$s$[m]で運動するSに対して、1秒当たり長さ$(v−s)$[m]のベルトが通過する。Sはこの長さのベルトに$f_S$個のりんごを置くことになる。また、静止しているRの前を1秒当り長さ$v$[m]のベルトが通過するから,Rが拾う個数を$f_R$とすると、$v−s$ あたりに$f_S$個のりんごを置き、$v$の長さにある$f_R$の林檎を拾うから、次の比例式が成り立つ。

\[ v−s :f_S=v :f_R \] \[ ∴ f_R=(        )f_S \] (3)S、Rが共に運動しているとき、同様に考えると
\[ v−s :f_S=v+r :f_R \]
∴ 《 ドップラー効果   $ f_R=(        )f_S $    》(結論) の式が導かれる。

ベルトの速さを音速$v$に,Sが単位時間に置くりんごの数を音源の振動数$f_S$に、Rが拾う数を観測者の振動数$f_R$にそっくり置き換えるとドップラー効果の式となる。即ち、音源、観測者が運動するとき、観測者が聞く振動数は上の式で与えられる。

この一連の説明から、ドップラー効果の単元は、
〈 ドップラー効果というのは、音源の振動数$f_S$と観測者が聞く振動数$f_R$が異なる現象〉で、そのような現象は、{音源が運動したり観測者が運動するときに起こり}、

《 $ f_R=\frac{v+r}{v−s}f_S $   》

となるという結論が、自然な流れとして、納得できるでしょう。
このように、〈定義〉と《結論》と{筋道}を大事にし、生徒さんが納得できるように教えるよう心掛けています。

例2 等加速度運動の公式
「滑らかな斜面上を滑り落ちる鉄球は、その速度を一定の割合(加速度一定)で増加させている。」〈このように、加速度が一定の運動を等加速度運動という。〉(等加速度運動の定義)

方法1 教科書の4式+1式
この方法は、教科書の説明に少しだけ追加しています。
教科書では、以下のような等加速度運動の4つの公式@〜Cを導き出していて、これで完了です。

$v=v_0+at$ ・・{$x$がない}・・@
$x=\frac{v_0+v}{2}t$ ・・{$a$がない}($v−t$グラフの台形の面積)・・A
$x=v_0t+\frac{1}{2}at^2$・・{$v$がない}・・B
$v^2−v_0^2=2ax$・・{$t$がない}・・C

Ren物理塾では、さらに、1つの式、
$x=vt−\frac{1}{2}at^2$・・{$v_0$がない}・・D

を追加し、
《@からD式》
を(結論)としています。

その理由の1つ目は、
この5つの式のいずれも、5つの物理量、位置$x$、時刻$t$、初速度$v_0$、後の速度$v$、加速度$a$のうちの1つが無いのです。したがって、1つの物体だけの等加速度運動の問題なら、連立方程式を立てなくても、どれかの式だけで解けてしまうのです。

その理由の2つ目は、
等加速度運動の公式は、5つの物理量のどれか1つがない5つの式で全てなのです。等加速度運動を学習すると、公式がいくらでもあるような感じを受け、難しい単元だと思う生徒さんがいるので、5つの式で終わりだと思うと安心できるというわけです。さらに、5つの式の中で独立しているのは、2つなのです。例えば、@式とA式から$v$を消すと、B式がでるのです。もちろん、$t$を消せばC式が、$v_0$を消せばD式がでるのです。したがって、どれか2つの式だけを記憶しておれば、連立方程式で問題を解くことができるという自信をもつことができます。例題を出しておきます。



例題 電車が、ある速さで走行していて、ブレーキをかけ、加速度−0.5$m/s^2$で、400m進んで止まった。ブレーキをかけてから止まるまでに何秒かかったか。

解答その1 ほとんどの生徒さんはD式を記憶していないので、2つの式の連立方程式で解くことになります。@とA式を使ってみます。
電車は止まるので、$v=0$だから、
\[ 0=v_0−0.5t \] \[ 400=\frac{v_0+0}{2}t \]
この2式から、$v_0$を消して$t$を求めると、$t=40s$

解答その2 D式を使う。
$400=0×t−\frac{1}{2}(−0.5)t^2$  ⇒ $t=40s$

方法2 ガリレオ+微積
この方法は、微積の初歩を利用しています。
「鉄球が斜面を下るときの運動は、トップページ示したように、図のようになっています。」
点Aから滑り落とすとき。

ガリレオの斜面上の運動

最初の1秒間で滑った距離を$e$[m]とすると、次の1秒間では、3$e$ [m]、その次の1秒間では、5$e$ [m]、その次の1秒間では、7$e$[m]、・・・・・となっています。1秒間で進む間隔がだんだん大きくなり、その割合は、1:3:5:7:・・・となるのです。
そこで、図の点Aを原点として、斜面に沿って$x$軸をとり、位置$x$と時刻$t$の関係を求めると、1秒のときは $e$[m]、2秒のときは $e+3e=4e$ [m]、3秒のときは $4e+5e=9e$ [m]、4秒のときは $9e+7e=16e$ [m]となっているから、$x$と$t$の関係は、
$x=et^2$ となります。
速度$v$の定義は、$v=\frac{x'−x}{t'−t}=\frac{\Delta x}{\Delta t}=\frac{dx}{dt}$ だから、$x$を$t$で微分して、$v$と$t$の関係は、
$v=\frac{d}{dt}(et^2)=2et$ となります。
加速度$a$の定義は、$a=\frac{v'−v}{t'−t}=\frac{\Delta v}{\Delta t}=\frac{dv}{dt}$ だから、$v$を$t$で微分して、加速度$a$は、
$a=\frac{d}{dt}(2et)=2e$ となります。
$e$の代わりに、加速度$a$を用いて、$x$、$v$を表せば、
$x=\frac{1}{2}at^2、v=at$ となります。

さらに、斜面の途中を原点に選んで、初速度$v_0$がある場合に、式$v=at$を拡張すれば、速度$v$は、
$v=at+v_0$ ・・{$x$がない}・・@となります。
$v$を$t$で積分すると$x$となるから、(積分は微分の逆)
$x=\frac{1}{2}at^2+v_0t$ ・・{$v$がない}・・Bとなります。
前述と同様に、@とB式から、$a$を消すとA式が、$t$を消すとC式が、$v_0$を消すとD式が出るのです。

{参考}
もちろん、式を5つ記憶する必要はありません、3つか4つで十分です。ただ、5つで全てだと思うと安心できるはずです。さらに、下で示すように、$v−t$グラフから式A、B、D式を求めると、それらの式は、すぐに理解できるので、記憶するのも簡単です。
下の$v−t$グラフで、進んだ距離$x$は斜線部の面積です。
この面積$x$の求め方で、
台形ABDFの面積から求めるとA式がでます。
四角形ABCFの面積+三角形FCDの面積から求めるとB式がでます。
四角形ABDEの面積−三角形FDEの面積から求めるとD式がでます。